富樫さんが亡くなった。奇しくも昨夜、タイコのチューニングのことを書いたが、富樫さんも見事なチューニングだった。
井野さんがJJスピリッツを辞めた後、佐藤さんの紹介でピットインで初めて富樫さんと演奏した。オーディションみたいなもんで、以後JJスピリッツに加えてもらうことになり何本か予定が入ったのだが、その後ケルンで日野さんをゲストに一度演奏したきりで、富樫さんは演奏不可能に陥った。私としては残念無念であったが2度の共演は得るものが多かった。
印象にあるのはビート感。下半身が無いのがまったく気にならなかったのを覚えている。私のイメージでは間の取り方と切れ味のいいリズムテンションと美しい音色というのが富樫さんだったが、黒っぽいビートとビーバップを感じたのは意外な発見だった。
ドラムとベースは共通のテイストが無ければまったくかみ合わないと思うが、私は僭越ながらこれからいっしょに演奏できるのがとても楽しみだった。富樫さんはどう思ったか今になっては分からないが。
好きな録音が何枚かあって、その好きなところというのが富樫さんならではの空間の用い方で、なかなかこういったドラムはいないなあとよく仲間内では話していた。フリージャズのドラマーとか言われているがまったくあたっていないと思う。どうしてそういった垣根を作りたがるのかよくわからないが、紛れも無くアーティストだったな。
佐藤さんもそうだけど、この人たちは恐ろしい。なかなか上手くは言えないが、時代小説でたとえて言えば、「本番も木刀でいきましょう。」と言っておいて抜き身になるときがある。その瞬間が「やばい!」と思うのだ。だいたい私は致命傷を負って返す刀で自分の足などを切って「もうどうにでもなれ!」と刀をぶん投げるのがおちなのである。ようするに油断が多いのだな。かといって構えていればいいものでもないけど。
あのときのテープを引っ張り出してきてとことん飲んで聴いてご冥福を祈ります。